見えるというありがたさ。

左目に大きな眼帯をして、ホテルのダイニングに降りていく。

今日でこの見えないという煩わしさから開放されるのだ。予約は朝一番9時30分にする。眼の中の

レンズは遠くより近くがより鮮明に見えるように合わしてもらってある。

今迄私は目の悪さから気がつかない事が多い生活をしていたと、実感した。今朝ホテルの部屋で、ベッドを写す鏡の中にとてつもない、老婆をみつけた。首筋の肉のたるみ、目の下にシワがよる。

友達が、秘密で教えてくれた、奇跡のクリームを自らのからだで試すことにする。

使用前、使用後を写さなければならない。

気をつけよう。鏡の数が少な過ぎた。

今、蘇る為の準備をしなくてはならない。


さてと。今左目が自由になって、ホテルに帰って来た。見える。今まで気が付かなかったものが、よく見える。やたら周りが気になる。

通りすがりの、男の顔が、目に飛び込んでくる。

母の目はやたら良い。これは二人の娘には遺伝してはいない。これだからあの人は私のことも気に入らなかったのだろう。

だって解るもの、今まで見えていたものは只の輪郭、家に帰るのが楽しみになってきた。