木の精霊

東大和の地主さんのお庭がお家の移築のため家もろとも無くなるそうだ。

それに伴い木と地主神様の祠を神棚にお移しする大きなお業が行われた。

朝早くからK君がアシスタントとして初めて参加する。

旧家は既に大きな重機が入り何本かの木が引き倒され無残にもころがっていた。

コンクリートの地下まであった大きな家はすでに半分残骸を残すばかりになっており

まだまだ残る木々たちの数本しか移せない状態である。素晴らしい庭石も石灯籠も

今は眼を覆いたくなる悲惨な状態だ。

先々代から精魂籠めた庭は非常事態を発令している。一歩足を踏み入れると右足首に

激痛が走りしばし動けない。こんなことはよっぽどである。解る人に訴えてきている。

「私が楽にしますからもう少しお待ち下さい。」と言うと

素早く痛みが去る。病人が居るうちの庭木を1本も枯らせないと昔おバーちゃんから

聞いた事もまんざら嘘とは言えないな〜〜。

麻縄が近頃売っていないのでシュロ縄に紙垂(しで)という半紙を三刀四垂れ切りを

奇数まい付け新しい庭に移転しない木々に付けていく。炎天下の作業だから大変である。

なんと40本強あった。(ご主人奥様息子さん娘さんがK君と共にお手伝いくださった。)

神様の屋移りの御業は地鎮祭とほぼ同じスタイルであるが、榊を祠いっぱい敷き詰める

と言う下準備は神野乃の金水が役に立った。

お昼を頂いてから、いよいよ御業をはじめる。まず庭木の方からである。満遍なく

天塩を庭じゅう家族に「清めたまえ払いたまえ」といいながらまいていただき、私は

引き抜かれた木々からお酒の入った御壷を差出し、ご家族に1本1本の木にお疲れ様でした

と言いながら酒を蒔いて頂いた。此の酒と御壷のにおいが重なり精霊様が御壷に入られ

重さが重たくなる。此の重さはご家族に確認してもらう。

最後の大きな御壷はK君に持ってもらう。最後の木々の精霊を誘導する。

「確かにずしりと重たくなりました。お入りになったことが解りました」

と感想を述べる。また不思議な事にお酒の臭いが壷からしなくなる。

この御壷の最後は氏子の神社さんで祝詞によりお帰り願うことをお頼みした。

しかし、近頃の宮司さんは快く引き受けては下さらないかもしれない。

このような、見えない世界の本当の意味合いが感じられなくなっている昨今である。

無理も無い事だ。

御壷はご自宅の神棚にお預けする。

さて、ひと段落して大きな御業である地主神様の祠をお社にまとめ神棚に祭る。

こちらは、炎天下の中ご家族のお手伝いでつつがなく屋移り頂いた。

こちらのお宅はご安泰である。下準備と聖水、清酒のお陰である。

K君の感想。「聞くと見るとは大違い。経験する事の価値を本当に解りました。」

これから彼も私と共に手伝ってくれるそうだ。

「感性は磨く為にあり留まる事は無い。感性こそ我らが宇宙から授かった

宝物であるからである」